「この事業から撤退すべきか」というお題が出た瞬間、多くの受験者は反射的に撤退の是非という二択の答えを急いで出そうとします。しかし事業撤退のケースでは、その二択そのものではなく、撤退と再生を分ける基準をどう設計するかが問われます。
撤退の可否だけを結論づけても、面接官は判断の背後にある基準を確かめようとします。基準を欠いた結論は、どちらの方向に転んでも評価されにくくなります。
この記事では、ケース面接で事業撤退問題が出題された際の解き方を徹底的に解説します。
事業撤退問題の出題頻度は売上向上や利益改善ほど高くありませんが、対策が手薄になりやすい領域です。対策を万全にしておきたい方は、ぜひ最後までご覧ください。
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1. ケース面接の「事業撤退」問題とは何を問われているのか
「この事業から撤退すべきか」という問いは、ケース面接の中でも意思決定型に分類される出題です。まずはこの問題がどのような形で出るのか、どのような位置づけを持つのかを確認しましょう。
意思決定型に位置づく出題
ケース面接では、2つの選択肢からどちらかを選んで意思決定させる出題が代表的なパターンの1つとして知られています。事業撤退のお題もこの型に含まれ、売上拡大策や公共・社会問題のお題と並ぶ位置づけです。戦略コンサル選考のケース面接では、与えられたビジネス課題を制限時間内で構造化し、結論と根拠を示します。事業撤退のお題も、この形式のなかで出題されます。
想定される設問文の形
具体的には「シェアが縮小している事業から撤退すべきか」「赤字が続く事業をどうするか」といった形で問われます。以下はStrategistsが作成した想定設問の例です。
- 国内シェアが5年連続で縮小しているA事業から撤退すべきか判断する
- 3期連続で赤字が続くB事業について、継続と撤退のどちらを推奨するか答える
出題頻度は、定番である売上拡大策や利益改善策ほど高くはありませんが、意思決定型の一類型として出題される可能性があります。
ケース面接対策について詳しく知りたい方は、Strategistsが無料で公開しているケース面接の教科書をご覧ください。
2. 事業撤退の問題は、利益改善やM&Aの問題と何が違うのか
事業撤退のお題は、同じ意思決定型に分類される利益改善やM&A(投資判断)のお題と混同されがちです。しかし問われている決定の性質は異なります。
| 観点 | 利益改善 | M&A(投資判断) | 事業撤退 |
|---|---|---|---|
| 問われる決定 | コスト構造の是正 | 買収するかどうか | 事業を続けるか、畳むか |
| 時間軸 | 短中期の収益改善 | 新規投資の意思決定 | 撤退の順序と時期まで |
| 評価の中心 | 削減が売上を毀損しないか | シナジーと実行リスク | 撤退基準の設計力 |
利益改善は事業を続けながらコスト構造を是正する問題であり、M&Aは新たに事業を取り込むかどうかを判断する問題です。事業撤退は、その事業をやめるかどうかという逆方向の意思決定になります。さらに撤退の順序や時期まで問われる点で、単純な投資判断とも異なります。
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3. 事業撤退の判断基準をどう設計するか
事業撤退の判断基準は、事業を継続した場合に将来生み出す利益やキャッシュフローと、撤退にかかるコストを比較して設計します。これまで投じてきた費用(サンクコスト)は、この比較には含めません。あわせて、単体では赤字に見えても、原価計算の配賦の仕方によって見かけ上の赤字になっていないか、他事業の収益に貢献していないかを確認しましょう。
比較するのは「継続した場合の利益」と「撤退にかかるコスト」
撤退の可否は、これから先に発生する分だけで判断します。事業を続けた場合に将来入ってくる利益やキャッシュフローと、撤退を実行した場合に出ていくコストを並べ、どちらが大きいかを比べましょう。どこまでの期間を見込むのかを先に置いておくと、比較の土台がぶれません。
単体で赤字に見えても撤退しない場合がある
事業を単体で見ると赤字であっても、原価計算での配賦の仕方によって見かけ上の赤字になっているだけの場合があります。原材料の共同調達や他事業との抱き合わせ販売を通じて全社の収益に間接的に貢献しているケースもあり、撤退の判断基準を設計する際はこの全社的な視点を織り込む必要があります。
事業ライフサイクルのどの段階にあるか
衰退期にある事業は今後の収益回復が期待しにくいため、速やかな撤退が選択肢の中心になります。創業期や成長期にある事業は、赤字が投資段階によるものである可能性があるため慎重な判断が必要です。事業がライフサイクルのどの段階にあるかを見極めることが、判断基準の中核になります。
出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「赤字事業から撤退を考えていますが、留意すべき点は何ですか。」
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4. サンクコスト(投じてきた費用)を判断からどう切り離すか
撤退の判断では、これまで投じてきた費用に引きずられると、答えの筋が崩れます。この費用がなぜ判断材料にならないのかを、順を追って確認します。
サンクコスト(埋没費用)とは何か
サンクコスト(埋没費用)とは、すでに支出してしまい、事業を続けても撤退しても回収できない費用を指します。設備投資や研究開発、広告宣伝にかけた費用が代表例です。
なぜ判断に入れてはいけないのか
判断の目的は、これから先に得られる価値を最大にすることにあります。すでに支出した費用は、撤退しても継続しても戻ってこないため、どちらを選んでも同じだけ失われます。同じ金額が両方の選択肢に等しく乗るのなら、その金額は選択肢どうしの差を生みません。事業の可能性は過去にいくら投じたかではなく、これから何を生むかで評価します。
面接官に「これまで多額を投資してきた」と言われたときの返し方
面接の途中で、面接官が「この事業にはすでに10億円を投資しています」といった追加情報を与えてくることがあります。ここで投資額の大きさに引きずられて結論を変える必要はありません。すでに支出した金額は回収できないため、判断基準は変わらず、今後生み出す利益とコストの比較のままです。この一貫性を保てるかどうかも、評価の対象になります。
その他のケース面接対策のコツや押さえておくべきポイントは、Strategistsが無料で公開しているケース面接の教科書でご確認ください。
5. 「撤退」と「事業再生」はどの条件で分岐するのか
「撤退」と「事業再生」の分岐は、事業ライフサイクルの段階、赤字が構造的か一時的か、自社が最適な担い手かどうかという3つの軸で判断します。前の2つは事業そのものの見通しを問う軸で、最後の1つは「誰がやるか」を問う軸です。この3つ目を持っておくと、清算だけでなく他社への売却まで選択肢に入れられます。
赤字が構造的か一時的か
市場そのものが縮小し続けている、あるいは競合との価格競争が激化しているといった構造的な要因による赤字は、自助努力での回復が難しく、撤退の可能性が高まります。一方で一時的な需要減や、投資段階特有の先行費用による赤字であれば、再生の余地があります。
自社が最適な担い手か
自社がその事業を続ける最適な担い手かどうかも、分岐の軸の1つです。技術やブランド、顧客基盤に一定の価値が残っていれば、自社での再生が難しくても他社への売却が成立することがあります。撤退のお題を「続けるか、清算するか」の二択で終わらせず、他社への売却まで選択肢に含められるかが差になります。
再生を選ぶなら、どんな条件と期限を置くか
再生を選ぶ場合は、無期限の猶予を与えるのではなく、具体的な改善指標と期限をセットで置きましょう。中小企業の事業再生には、ガイドラインに沿った計画を認定支援機関の支援を受けて策定する公的な枠組みがあり、再生の実行には一定の手続きと合意形成が伴います。
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6. 撤退コストとは何か|「どう撤退するか」まで詰める
撤退という結論を出しても、実際にどう撤退するのかまで示せなければ、答えとしては半分です。撤退にはこれまで投じてきた費用とは別に、新たに発生するコストがあります。
撤退に伴って発生する費用と手続き
撤退を実行する段階では、次のような費用や手続きが発生します。
- 店舗や工場の原状回復費用
- 専門家への報酬
- 解散・清算に伴う登記費用
- 税務署などへの廃業に関する届出
- 債権者への公告・個別催告と弁済
- 従業員の働く場の確保
登記だけでも数万円程度の費用がかかるとされ、原状回復などの費用が加わると経済的な負担はさらに大きくなります。
従業員・取引先・顧客への影響をどう織り込むか
撤退の影響は社内にとどまりません。取引先には仕入れや納品契約の解消を伝える必要があり、顧客には撤退の理由と今後の対応を理解してもらう必要があります。従業員については、処遇と再就職先の確保が、撤退コストのなかでも比重の大きい項目になります。
撤退の順序と時期をどう置くか
撤退の実行プランでは、何を、いつまでに、どの順序で進めるかを示しましょう。顧客や取引先への説明を先に置き、そのうえで在庫や設備の処分、契約の解約、従業員の処遇確定へと進める並べ方が、面接では説明しやすい順序です。期限を示さずに「撤退します」とだけ結論づけると、実行可能性の乏しい答えに見えてしまいます。
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7. 事業撤退のケースを解く手順
ここまでの判断基準を、実際の面接でどの順序で話すかという形に落とし込みます。
- ステップ1 前提確認:「撤退」の定義と、誰にとっての問題かを面接官とすり合わせます
- ステップ2 現状分析:赤字や不振の構造を分解し、原価配賦の影響がないかを確認します
- ステップ3 判断基準の適用:継続した場合の利益とコストを比較し、サンクコストを外して評価します
- ステップ4 選択肢の比較:撤退、再生、売却を、分岐条件に照らして絞り込みます
- ステップ5 結論と実行プラン:結論とあわせて、撤退の順序と時期を示します
この5つのステップ自体は、他の意思決定型のお題とも共通します。事業撤退の型では、ステップ3から5にどれだけ具体的な判断基準と実行プランを持ち込めるかで差がつきます。
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8. グロース・シェア・マトリクス(PPM)はどう使えばよいのか
事業ポートフォリオを俯瞰するフレームワークとして、グロース・シェア・マトリクス(PPM)が使われることがあります。事業撤退のお題でも、位置づけの整理に活用できます。
原型のスケッチから普及までの経緯
このマトリクスの原型は、BCGのアラン・ザコンが最初にスケッチし、同僚とともに練り上げたものです。1970年に創業者のブルース・ヘンダーソンがエッセイ「The Product Portfolio」で取り上げたことで、広く知られるようになりました。
PPMでは縦軸に市場成長率、横軸に相対的マーケットシェアを取り、事業を問題児・花形・負け犬(犬)・金のなる木の4象限に分類します。この分類によって、経営陣はどこに資源を集中させ、どこで損切りをするかを判断できるとされ、最盛期にはフォーチュン500企業の約半数が採用したといわれます。
出典:BCG公式「What Is the Growth Share Matrix?」
出典:BCG公式「The Product Portfolio」
フレームワークに当てはめて終わりにしない
PPMは事業の相対的な位置づけを俯瞰する助けにはなりますが、撤退の是非そのものを決めてはくれません。「負け犬」に分類したからといって即座に撤退と結論づけるのではなく、判断基準への当てはめとサンクコストの扱いを経たうえで、最終的な結論につなげましょう。
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9. 面接官は事業撤退のお題で何を見ているのか
事業撤退のお題で、面接官は結論の方向性そのものを見ているわけではありません。撤退の基準を自分で定義できるか、その基準から結論まで一貫して運べるか、そして粗くても数字で規模感を置けるかが見られます。
撤退基準を自分で定義できているか
日本企業が事業の撤退や売却を検討・実施する際の課題としては、売却などを検討する基準が明確でないこと、検討のプロセスが明確になっていないことが挙げられています。実務でも難所とされる論点をその場で言語化できるかどうかが、評価に直結します。
結論の方向より前提と結論の一貫性
「撤退すべき」でも「撤退すべきでない」でも、結論そのものの方向性が評価を決めるわけではありません。将来、戦略コンサルタントとして実務に立ったときには、前提として置いた基準と最終的な結論の一貫性が問われます。よって基準を先に示し、そこから外れずに結論まで運べているかが確認されます。
粗くても定量の概算を置けるか
撤退のお題では、定性的な議論に終始せず、粗くても継続時の利益やコストの概算を数字で置けるかどうかが見られます。精緻な数値である必要はありませんが、判断の土台になる規模感を示せるかどうかで、答えの説得力が変わります。
10. 事業撤退のお題でよくある失敗と対策の進め方
最後に、事業撤退のお題で評価を落としやすい失敗パターンと、その対策の進め方を紹介します。
「赤字だから撤退」で終わってしまう
赤字という結果だけを見て、即座に撤退と結論づけてしまう答えは評価されにくくなります。単体の赤字が原価配賦によるものではないか、他事業への貢献がないかを確認せずに結論を急ぐと、判断基準を設計する過程そのものが抜け落ちてしまいます。
撤退コストを見積もらないまま結論を出す
撤退という結論だけを示し、撤退に伴う費用や手続き、従業員への影響に触れずに終える答えも、実行可能性の面で評価が下がります。結論と同じ比重で、どう撤退するかまで示す姿勢が求められます。
撤退基準を言語化する練習をどう積むか
撤退基準の設計は、書籍や記事で型を覚えるだけでは身につきにくい領域です。どこまで基準を具体化できているか、サンクコストに引きずられていないかは、自分の答えを客観的に確認しなければ気づきにくいためです。実戦形式で答えを声に出し、第三者からのフィードバックを受ける練習が、独学で埋めにくい部分を補います。
まとめ
事業撤退のケースは、撤退するかどうかを選ぶ二択の問題ではありません。継続時の利益と撤退コストを比較し、サンクコストを外し、撤退と再生の分岐条件を自分の基準で示せるかどうかが問われる設計問題です。
判断基準を先に定義し、その基準から結論と実行プランまで一貫して運べるかどうかが、面接官の評価を左右します。出題頻度は高くない領域だからこそ、基準を事前に持っておくことが、当日の落ち着いた対応につながります。
本記事のテーマを頭で理解しても、実際のケース面接で使いこなせるかどうかは別問題です。
「示唆が出せない」「分析が浅い」といった課題は独学では気づきにくく、放置すると本番まで改善されないまま終わることも少なくありません。
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結論、我々が辿り着いた答えは
①学習する:プロから正しく学ぶ
②練習する:繰り返し練習し学んだことを自分の体に染み付かせる
③実践する:実践で到達度や課題を明確化する
→①②に戻る
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