海外進出のお題で候補国を比べるとき、人口や所得の大きさだけを並べると、輸送費や関税のように国と国が離れているせいでかかる費用が計算から抜け落ちます。
CAGE分析は、パンカジ・ゲマワットが国どうしの隔たりを文化・制度・地理・経済の4つの距離に分けて見るために示したものです。ケース面接では、この距離を遠い・近いと言うだけで終わらせずに売上と費用の数字へ置き換えて比べたとき、進出先を理由とともに言い切れます。
この記事では、CAGE分析の4つの距離の中身、ケース面接で距離を数字に直して比べる方法、電動アシスト自転車メーカーの例題について解説します。
- 本番形式で模擬ケース面接を実施
- 現状のレベル・改善点をフィードバック
- 内定への戦略がわかる
※少数精鋭での運営のため、枠が埋まり次第締め切ります。
市場の大きさだけで比べると見落とす距離の費用
候補国を人口や所得で比べ終えたつもりでも、海外で事業をする費用とリスクはまだ数字に入っていません。市場の大きさだけの比べ方で何が抜けるのかを、先に確認しておきましょう。
国の豊かさや所得で比べると抜ける費用とリスク
国の豊かさや消費者の所得、人々がお金を使う度合いで候補国を比べると、その国でどれだけ売れそうかは分かっても、事業にかかる費用とリスクは数字に表れないままです。
会社が海外市場の魅力をいつも過大に見積もってしまう原因も、この比べ方にあります。国の豊かさや所得に注目して比べると、見込める売上ばかりを見てしまい、新しい市場で事業をする費用とリスクが見落とされるためです。
面接で候補国を比べるときは、売上の見込みを出したところで止めず、その国で事業をすると何にお金がかかるかも同じ表に書き出しましょう。
出典:Harvard Business Review「Distance Still Matters: The Hard Reality of Global Expansion」
費用とリスクを生む国と国との距離
海外で事業をする費用とリスクの多くは、国と国との距離が生む障壁から生じます。ここでいう距離は、地図の上の遠さだけを指すわけではありません。地理以外の面でも、海外市場の魅力が大きく上がることも下がることもあります。
人口と所得の大きい国でも、言葉が違い関税がかかる国なら、売れた分の利益が費用に削られることがあります。候補国を比べる前に、距離がどこで費用を生むかを考えておきましょう。
出典:Harvard Business Review「Distance Still Matters: The Hard Reality of Global Expansion」
データで見る国境をまたぐ結び付き
国境をまたぐ結び付きは、多くの人が思っているほど強くありません。Foreign Policyの2009年の記事でゲマワットが示したデータでは、電話、Webのトラフィック、投資の90%超が国内にとどまっています。
国境を越えやすく思える電話や投資でさえ、大半は国の中で完結しているわけです。海外進出のお題でも、国境を越えれば同じように売れると考えず、本国との違いを費用として書き出すことから始めましょう。
出典:Foreign Policy「Why the World Isn’t Flat」
CAGE分析の4つの距離
市場の大きさだけの比べ方で抜けていた費用とリスクは、国と国との距離をいくつかの面に分けると洗い出せます。CAGE分析の4つの距離がそれぞれ何を指すかを確認し、お題の候補国に当てはめましょう。
CAGE分析を示したゲマワットの2001年の論文
CAGE分析では、国と国との距離を文化(Cultural)、制度(Administrative)、地理(Geographic)、経済(Economic)の4つの面から見ます。
この4つの距離の枠組みは、パンカジ・ゲマワットがハーバード・ビジネス・レビューの2001年9月号の論文で、CAGEフレームワークとして示したものです。面接で名前を出すときは提唱者と年を一言添える程度にとどめ、4つの距離の中身を説明できるようにしておきましょう。
出典:Harvard Business Review「Distance Still Matters: The Hard Reality of Global Expansion」
文化と制度の距離で見る項目
文化的距離は、進出先の国と自社の国とで違う宗教的信念、人種、社会規範、言語を指します。
制度的距離(行政・政治の距離)で見る項目は、植民地と旧宗主国の結び付き、共通の通貨、貿易の取り決めの3つです。貿易の取り決めがなければ関税がかかり、同じ商品でも進出先での値段や利益が変わってきます。
ゲマワットの論文が挙げる項目のほかに、お題の業界に合わせて足す項目もあります。消費財なら、個人主義か集団主義かといった考え方の違いや、商品の使われ方の違いを文化の距離に加えて考えるとよいでしょう。
出典:Harvard Business Review「Distance Still Matters: The Hard Reality of Global Expansion」
地理と経済の距離で見る項目
地理的距離では、2国の物理的な距離に加えて、進出先の国の大きさ、水路や海への出やすさ、国内の地形、交通と通信のインフラを見ます。
経済的距離の項目は、2国の豊かさや消費者の所得の差と、資金などの資源の費用と質の違いです。ゲマワットの論文には挙がっていない時差や気候、人件費や物価も、業界によっては地理や経済の距離に入れて考えることがあります。
候補国ごとに、論文が挙げる項目と業界に合わせて足した項目を分けて書き出しておくと、面接官に根拠を聞かれても答えられます。
出典:Harvard Business Review「Distance Still Matters: The Hard Reality of Global Expansion」
影響の大きい距離は業界によって違う
業界が違えば、4つの距離のうち影響の大きいものも変わります。ゲマワットは論文で、どの種類の距離が、どの業界にどれだけ影響するかを調べています。そのうえで、距離をはっきり考えに入れると、会社が描く戦略の選択肢が大きく変わると示しました。
たとえば食品のように好みが国で分かれる商品は文化の距離が、重くてかさばる商品は地理の距離が、規制の多い業界の商品は制度の距離が響きやすいと考えられます。お題を出されたら、その業界でどの距離が売上や費用を大きく動かしそうかに当たりをつけてから、候補国を比べましょう。
出典:Harvard Business Review「Distance Still Matters: The Hard Reality of Global Expansion」
ケース面接でのCAGE分析の使い方
海外進出をすべきかどうかや進出先の比較、複数の海外市場の優先順位を問うケース面接のお題では、面接官はどの国に出るべきかという答えを求めています。4つの距離をその答えの根拠にするには、距離をどこから測り、どの距離から見て、どう数字に直し、どう対応するかを順に確認しましょう。
距離はクライアントの本国から測る
距離は、どの国から見るかで大きさが変わります。日本の会社にとって近い国も、別の国の会社から見れば遠い国になるわけです。CAGE分析は、進出先の候補の市場が、会社がすでに事業をしている市場からどう離れているかを見極める助けになります。
面接では、まずクライアントの本国と、すでに進出している国があればその国を確認し、そこから候補国までの距離を測りましょう。
出典:Harvard Business Review「Distance Still Matters: The Hard Reality of Global Expansion」
経済の比較だけで終えない
経済の距離は所得や人件費の数字ですぐに比べられるので、候補国の比較が所得の差だけで終わってしまうことがあります。所得の差だけで比べると、文化の違いで売れない商品や、関税と輸送費で利益が残らない国を見落とし、結論が市場の大きさだけの比較と同じになります。
電動アシスト自転車のようにかさばって運ぶ費用が大きい商品なら地理の距離を、使われ方が国で違う商品なら文化の距離を先に確認しましょう。そのうえで経済の距離を加え、結論を大きく動かしそうな距離から順に、面接官に数字を尋ねてください。
距離を費用と売上の数字に直す
「文化の距離が遠い」「地理の距離が近い」と言うだけでは、面接官はその距離がどれだけ結論を動かすのかを判断できません。距離は、1台あたりの費用か、見込める売上に置き換えましょう。
関税や輸送費のような制度と地理の距離は1台あたりの費用に、使われ方の違いのような文化の距離は見込めるシェアに、所得の差のような経済の距離は売れる価格に直せます。距離が近いだけで有望とは限らず、市場が小さい国では費用が少なくても売上が足りないことがあるため、費用と売上は同じ表で差し引きしましょう。丸や三角の記号で評価を付けるより、面接官に数字を尋ねて計算したほうが、結論を変えるほどの差かどうかを伝えられます。
距離への対応は適応と集約と裁定から選ぶ
距離の影響が分かったら、その距離にどう対応するかの方向も決めておくと、結論に打ち手を添えられます。国ごとの違いへの対応の方向として、ゲマワットは2007年の論文で国際戦略の3つの型を示しました。
- 適応(adaptation):現地に合わせる度合いを高めて売上と市場シェアを伸ばす方向
- 集約(aggregation):地域や世界の単位で事業をまとめて規模の経済を得る方向
- 裁定(arbitrage):国や地域の市場の差を利用し、供給網の各部分を別々の場所に置くことが多い方向
3つすべてに同時に取り組むこともできますが、競争優位を築こうとする会社は、ふつう1つか2つに絞る必要があります。面接では、見つけた距離が商品を変えれば縮まるものか、変えても残るものかを考え、方向を1つか2つに絞って結論に添えましょう。
出典:Harvard Business Review「Managing Differences: The Central Challenge of Global Strategy」
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CAGE分析で進出先を選ぶケース面接の例題
海外進出のお題で距離を数字に直すと、市場の大きさだけで選んだ国とは別の国が答えになることがあります。電動アシスト自転車メーカーのお題で、市場の大きさだけで比べた答えと距離を加えた答えを計算し、選ぶ国がどう変わるかを確認してください。
比べる基準は1年目の営業利益
例えば、国内で電動アシスト自転車を作って売る中堅メーカーK社が、初めての海外進出先を、候補のP国・Q国・R国から1つ選びたいと考えているとします。K社がどの国に進出すべきかを考えるお題です。
解き始める前に、何で国を比べるか、どこで作るか、何を売るかを面接官に尋ねましょう。面接官の答えから、比べる基準が進出1年目の営業利益、供給の方法が日本の工場からの輸出、売る商品が今の通勤向けモデルという3つの前提がそろったとしましょう。基準を1年目の営業利益に決めておくと、市場の大きさから見込める利益も、距離によってかかる費用も、同じ円の単位で足し引きできます。
市場の大きさだけならP国が最も有望
市場の大きさと価格、原価を面接官に尋ねると、次の数字が返ってきたとします。
- 電動アシスト自転車の年間の市場の大きさ:P国50万台、Q国30万台、R国15万台
- K社の販売価格:1台10万円
- 製造原価:1台6万円
- 何も手を打たない場合の見込めるシェア:どの国も4%
距離を考えずに計算すると、1台あたりの利益は10万円−6万円=4万円で、どの国でも同じです。この4万円は、価格から製造原価だけを引いた、関税や輸送費、初年度の固定費を引く前の利益です。見込める台数は、P国50万台×4%=2万台、Q国30万台×4%=1.2万台、R国15万台×4%=6,000台になります。
固定費を引く前の利益は、P国が2万台×4万円=8億円、Q国が1.2万台×4万円=4.8億円、R国が6,000台×4万円=2.4億円です。市場が最も大きいP国が、R国を大きく引き離して最も有望に見えます。ただ、この計算には、P国まで運ぶ費用も、P国で売るときにかかる関税も入っていません。
4つの距離を利益とシェアに置き換える
距離ごとに、K社の価格や費用やシェアがどう変わるかを面接官に尋ねましょう。4つの距離について、次の条件が分かったとします。
- 文化の距離:P国では自転車を通勤より休日の娯楽に使う人が多く、通勤向けモデルの見込めるシェアは2%(Q国とR国は使われ方が日本と近く4%のまま)
- 制度の距離:P国は日本と貿易の取り決めがなく関税が1台2万円、安全基準の認証も必要で、販売網の立ち上げと合わせた初年度の固定費は2億円(Q国とR国は関税も認証も不要で、固定費は販売網の立ち上げの0.5億円)
- 地理の距離:1台あたりの輸送費がP国1.5万円、Q国0.5万円、R国0.3万円
- 経済の距離:Q国は所得の水準が低く売れる価格は1台8万円(P国とR国は10万円)
関税と輸送費、売れる価格は1台あたりの利益に、使われ方の違いは見込めるシェアに、認証と販売網の費用は初年度の固定費に反映されます。
1台あたりの利益を計算し直すと、P国は10万円−6万円−関税2万円−輸送費1.5万円=0.5万円です。Q国は8万円−6万円−輸送費0.5万円=1.5万円、R国は10万円−6万円−輸送費0.3万円=3.7万円になります。市場の大きさだけで比べたときにはどの国も4万円だった利益が、距離を加えるとP国では8分の1まで減ります。
距離を加えるとR国の営業利益が最も高い
見込める台数は、P国が50万台×2%=1万台、Q国が1.2万台、R国が6,000台です。
| 国 | 1台あたりの利益 | 見込める台数 | 初年度の固定費 | 1年目の営業利益 |
|---|---|---|---|---|
| P国 | 0.5万円 | 1万台 | 2億円 | −1.5億円 |
| Q国 | 1.5万円 | 1.2万台 | 0.5億円 | 1.3億円 |
| R国 | 3.7万円 | 6,000台 | 0.5億円 | 1.72億円 |
1年目の営業利益は、P国が1万台×0.5万円−2億円=0.5億円−2億円=−1.5億円です。Q国は1.2万台×1.5万円−0.5億円=1.8億円−0.5億円=1.3億円、R国は6,000台×3.7万円−0.5億円=2.22億円−0.5億円=1.72億円になります。市場が最も小さいR国の利益が最も高く、最も有望に見えたP国は赤字なので、最初の進出先はR国だと答えられます。
面接官から「P国は通勤向けをやめて娯楽向けに作り替えれば、市場の大きさを生かせるのでは」と問われたら、P国のシェアを4%に戻した場合も計算しておきましょう。2万台×0.5万円−2億円=1億円−2億円=−1億円で、作り替えの費用を入れなくても1億円の赤字が残ります。
P国の赤字の主な原因は、文化の距離によるシェアの半減より、関税と輸送費で1台あたりの利益が0.5万円まで削られていることにあります。面接官には、現地に合わせて商品を変える適応では、関税や輸送費のような制度と地理の距離による費用は減らないことも伝えましょう。
R国のシェアが下がった場合の条件
R国という結論は、R国で通勤向けモデルが4%のシェアを取れるという仮定に支えられています。R国の見込めるシェアが3%に下がると、台数は15万台×3%=4,500台です。営業利益は4,500台×3.7万円−0.5億円=1.665億円−0.5億円=1.165億円となり、Q国の1.3億円を下回ります。
営業利益がQ国と並ぶ台数は、(1.3億円+0.5億円)÷3.7万円=1.8億円÷3.7万円≒4,865台です。シェアに直すと4,865÷15万≒3.24%で、約3.2%が結論の分かれ目になります。
面接官には「R国を最初の進出先にしますが、通勤向けモデルでシェア約3.2%以上を取れる見込みを、進出前に現地で確認することが条件です」と、結論と条件を分けて伝えましょう。Strategistsは、自分で仮定した数字は都合のよい値に寄りがちなので、経験者から別の値をもらい、その値で計算し直して結論を伝える練習を重ねておくとよいと考えています。
まとめ
CAGE分析の4つの距離は、並べて説明するだけでは進出先の差を示せず、売上と費用の数字に直すと結論の根拠になります。市場の大きさだけで選べばP国だった電動アシスト自転車の進出先も、関税や輸送費、使われ方の違いを計算に加えると、市場が最も小さいR国に変わりました。
例題の4つの距離の影響を1つずつ外して1年目の営業利益を計算し直し、P国の赤字を最も大きくしている距離を確認してください。次に、輸出する商品を家具や食品のように重さや好みの違いが大きいものに替え、候補国ごとにどの距離が1個あたりの費用や見込めるシェアを最も動かすかを、声に出しながら計算で比べてみましょう。距離ごとの費用と売上が数字で並べば、どの商品のお題でも進出先を条件付きで言い切れます。
本記事のテーマを頭で理解しても、実際のケース面接で使いこなせるかどうかは別問題です。
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③実践する:実践で到達度や課題を明確化する
→①②に戻る
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